正解

あの頃は、たぶん、いっぱいいっぱいだった。
体も、心も。

だから、今ここにいるのか。

来るべくしてここにいるのか。


しんどかったんだけど、守られていたし、責任もさほどなく、ただひたすら走っていれば良かった。

振り返ったらやっぱり私は八分坂で立ち止まってしまったんだって思う。
結果として、逃げてしまって、今の私がいるような気がするときもある。

でも、あのまま、走り続けていたら、今の幸せや大切なものはなかっただろう。

だから、正解。

私にとっては、正解。

そして、この道をまた色々選択しながら走っていくだけだ。






研修医だった2年間。
私は、今になってやっと懐かしいという愛しい気持ちを持って思い出す。

記憶に残っている大切なものは、同じ研修医の友達であったり、夜を使って交流を深めた看護師の友達であったり。
そして、2年間で受け持った患者さんたち。

不思議なのは、疲れていて、へとへとになって、もうやめたいって思いながらギリギリで過ごしていたころに受け持っていた患者さんのことをとても思い出すことだ。

変な人ももちろんたくさんいた。

今よく言われているモンスターというような患者さんもたくさんいた。

そして、私の目の前で死んでいった人も。


命に期限をつけて、見守った人も。


逃げていたようで、でも、私なりに頑張った日々。


寝ている時に鳴り響いたピッチを握って走った夜中。

救急車の幻聴が聞こえていたころ。

手術室のモニターの音。

隠れてこっそり居眠りしてたことや。


思えば2年間病院中をかけずり回っていたなぁ。

濃かった。

上の先生たちはもちろん、検査や薬局の人たち。掃除のおじさんやおばさん。
病院食を作る人。
売店の人。

色々な人と関わって楽しかったといえば、楽しかった。

あの頃はずっとタバコを吸ってたから、人と仲良くなるのも早かった。

外科でついてくれたオーベンの先生とはよくタバコ吸いながら休憩してたなぁ。


官舎はきったなかったなぁ・・・


しんどくて早く抜け出すことばかり考えていたけど、今こうして何もない時期に振り返ると、それは愛しい毎日。
充実していた記憶。

あのままで、走り続けるのは到底私には無理だったのだろうけど、これからも私は自分の選んだ道で一生懸命やっていくんだと、再確認します。