雨の日の

雨の日と子供の頃のことを想うと,いつも浮かんでくるのは同じ景色.
私の子供の頃は,とても古いつくりの家で,私の部屋の窓ガラスは引き戸式の模様が入ったすりガラス.
その窓を開けると家の裏山だった.

そこにしとしとと降る雨のこと.

しっとりと濡れた緑の草や葉,木があった.
雨の音がした.

私は,それらの音を聴いて,そしてにおいを記憶に刻み込んできた.

うまく,表現できないんだけども.
私は雨の日に子供の頃の記憶を辿るととても切なくなる.
何故なんだろう.
もう戻れないからなのか.
それとも,本当に今の生活とはかけ離れた記憶だからなのか.

今,子供の頃のことを思い返すと,全く別の人生を生きているような気分になる.
一昔前に生きていた記憶を想っているような気分になる.

そして,もうその家は私の帰る場所ではない.
家族もバラバラになってしまっている.
あの頃,今がこんな風になることはほんの少しだって想像できてなかった.


そして,だいぶ間が空いてしまったこの日記だけども.
私は無事に子供をこの世に送り出すことができた.

今は,私の生活の全てといえるほどの存在で,毎日が子供で始まり子供で終わる.
色々な想いを抱いて,毎日を送っている.
正直,想像していたよりもずっと愛しく思える存在だった.
これから,子供が一人で生きていけるようになるまでは全力で守らなくてはならないと思う.

そして,私は自分が刻み込んできたような幸せな子供の頃の記憶と同じような記憶を,子供にも持たせてあげられるようにしたいと思う.
太陽の色とか,星空とか,雲の形とか,空の色とか.
季節ごとに感じる風のにおいとか.
通り道に咲いてる花とか草とかそういうものとか.
川を流れる水の色や音とか.
昼や夜に生きてる虫のこととか.
思いっきり走り回ったり.
笑ったり,泣いたり,怒ったり.
一生懸命考えたり.
誰かを大切に想ったり,好きになったり嫌いになったり.

たくさん遊んで帰ったときに,夕ご飯の支度をしているお母さんの背中とか.
夜眠りにつくときに別の部屋に感じる守ってくれる存在とか.

色々なたくさんの幸せと感じるような記憶を,私はこの子に残していきたい.
そして,自分のそういう幸せな記憶をもういちどこの子と一緒に刻んで行きたい.